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2020年現在日本では透析医療を受けておられる方が34万人おられます。うち血液透析の方が33万人で腹膜透析の方が1万人と報告されています。バスキュラーアクセスとは、血液透析において患者さんと透析装置との間で血液循環を可能とするために患者さん側に設けられる仕組みのことで、内シャント(自己静脈・人工血管)、表在化動脈、透析用カテーテルなどの種類があります。透析患者さんにはなくてはならないもので、バスキュラーアクセスが不全に陥ると直ちに透析に影響するため、文字通りライフライン(命綱)に例えられます。
バスキュラーアクセスの種類別では、2008年統計では自己静脈内シャント90%、人工血管内シャント7%、動脈表在化2%、透析用カテーテル1%となっています。血液透析を受けておられる方の97%が内シャントでの透析であることから、バスキュラーアクセスとシャントとはほぼ同意味となっています。
ご自身の動脈と静脈とを外科的に吻合して作製します。動脈から静脈に動脈圧の血液が流れこむことで、静脈が発達して太くなり、たくさんの血液が流れるようになります。高流量の血管が皮膚のすぐ下に出来ると、この血管を針で刺して血液透析で必要な血流量を、取り出し、そして返すことが可能となります。
初回作製では通常、利き手と反対側の手首近くで作りますが、静脈が細い場合や、2回目以降の作製では、前腕の中程肘近くで吻合したり、反対側上肢で作製したりすることになります。自己静脈内シャントは、他のバスキュラーアクセスと比較して、発達する、長期に開存している、感染に強いなどの長所があることから優先して作製されます。
自己静脈による内シャント手術は通常30~60分程度の手術時間で、局所麻酔下に行います。
ご自身の静脈が細い、詰まっているなどシャントに適さない場合は、ご自身の静脈の代わりに人工血管を移植してシャントを作製します。人工血管は合成素材で出来た直径4mmから6mmのチューブです。自己静脈が乏しい場合でも十分な血流を有するシャントを作製することが出来る利点がありますが、自己静脈内シャントと比較すると閉塞と感染に注意が必要となります。
人工血管による内シャントでは、通常60-120分程度の手術時間で、局所麻酔下に行います。
上腕動脈を剥離して、本来の深い位置から移動させ、皮膚の直下まで移動させています。これを動脈表在化手術といいます。
動脈表在化手術により動脈が皮膚の直下に移動しました。これで動脈を直接穿刺しやすくなります。
皮膚から深い位置を走行している動脈を、外科的に皮膚の直下に移動させて、透析の時に直接動脈を刺して血液を取り出すことができるように作製されます。シャントとは違い、血液を返すことが難しいため、別個に血液を返すための静脈があることが必要となります。内シャントが作製困難な方や、心不全で内シャントを作製することが適さない方、または内シャントが不全になったときのバックアップとして作製されます。
シャントは透析に使用している間に脱血が悪くなったり、返血圧が上昇したり、詰まったりするなどの機能不全に陥ることがあります。シャントトラブルまたはシャント不全と呼ばれます。シャントトラブルに対しては的確な診断と適切な治療が必要となります。トラブルを未然に防ぐには、透析時に透析スタッフに具合をよく見てもらうことはもちろんですが、ご自身でもシャントをよく見て触れて聴いておくことは大切なことです。定期的なバスキュラーアクセス診察はトラブルを未然に防ぐ重要なポイントです。
シャントトラブルを疑う諸症状があれば、まずは透析ご担当の先生、スタッフの方にご相談下さい。
自己静脈のシャント血管は、吻合部の近くや、穿刺部分、血管の分岐部に狭い部分が出来ることがありシャントトラブルの原因となります。人工血管内シャントであれば、人工血管とご自身の静脈との吻合部が狭窄しやすいことが知られています。シャント狭窄は透析時脱血不良の最大の原因です。
次のような症状は狭窄を疑います。
シャントが詰まった状態になることをシャント閉塞といいます。血の塊である血栓が出来て詰まったり、血管そのものが細くなったりして閉塞します。透析で使用できない状態となっていますのでシャントPTA、再作製などの治療が必要となります。前回透析まで問題なく使えていたのに急に詰まることもあります。
次のような症状は閉塞を疑います。
Aシャント血管瘤 Bシャント吻合部
シャント血管がこぶ状に膨らんだ状態をシャント血管瘤といいます。人工血管内シャントにも仮性血管瘤という同じような瘤が出来る場合も有ります。血管瘤は、こぶの皮膚が薄くなったり、痛み、感染、急速に拡大したりすれば手術が必要となります。
シャント血管に大量の血液が流れて過剰血流となっており、シャント血管は発達して太くなっています。
シャントは透析には必要不可欠ですが、透析に必要な血流量を超えて流れると心臓やシャントの腕に負担がかかることがあります。この流れすぎの状態を過剰血流内シャントといいます。心不全、静脈高血圧症、スティール症候群などの原因となることがあり、血流量を制御する手術や時にはシャントの閉鎖が必要となることがあります。
静脈高血圧症により腕全体に強い浮腫(むくみ)が認められます。
シャントのある上肢が、手指または上肢全体が異常に浮腫むことがあり、痛みや皮膚がただれたりします。これを静脈高血圧症といいます。治療はシャント血流制御や、シャント血管のバルン拡張(PTA)が行われますが時にシャント閉鎖が必要となることがあります。
スティール症候群による指の血流障害で、指が紫色で一部壊死部分が認められます。
シャントがある側の指が、血の巡りが悪くなることで、指に痛みや紫色に変色したり、時に指が壊死するまでなったりすることがありスティール症候群といわれます。本来指まで届くはずの血流がシャントに取られてしまい(steal=盗まれる)、酸素不足になることで引き起こされます。シャント関連手指虚血ともいわれます。治療は原因よりシャント血流制御、PTA、など複合した治療が必要となりますが、時にシャント閉鎖が必要になることも多い病態です。
人工血管内シャントの術後に、人工血管周囲に液(血清)がしみ出すことで術後に腫れてくることがあり、血清腫といいます。人工血管の性質上術後約5%に起きるといわれます。症状がなければそのままシャントは使用可能ですが、大きくなったり、痛みやただれがでたりした場合は、その部分の人工血管を別の材質の人工血管に取り替える手術が必要となります。
Aシャント感染部位から膿が出ています。 Bシャント感染部位の人工血管が露出しています。
シャントや動脈表在化、透析用カテーテルでは、細菌により感染することがあり、その病態に応じた治療が必要となります。自己静脈シャントでは感染部位を切除して新たなシャントを作製しますが、人工血管シャントでは人工血管全体を完全に摘出する必要がある場合が多く、次のシャント作製を含めると治療に必要な期間が長くなる傾向にあります。表在化動脈への感染では、単純に動脈を取り去ることが出来ない場合、バイパス術を必要とします。カテーテル感染は出口部感染だけであれば局所治療で済みますが、カテーテル感染であれば入れ替えが必要です。
シャント狭窄や閉塞があった場合、まず行う治療がシャントPTAです。方法は、シースといわれる直径2mm程度の管をシャント血管に留置して、ここからバルン付きカテーテルをシャント狭窄部に進めて、狭窄部を各先天的オウすることで治療します。局所麻酔で行います。シャント閉塞の場合、PTAにくわえてシャント内に充満した血栓をカテーテルで吸引して取り除いたり、血栓溶解剤を注入して溶かしたりする治療を合わせて行います。
Aシャントに狭窄部(狭い部分)が認められます。血流低下の原因です。 Bシャント吻合部です。
A シャントの狭窄部をバルン(小さな風船状の治療具)で拡張している様子です。この治療をPTAといいます。
A PTA後の造影です。シャントPTAという治療で、狭かった血管が太くなっています。シャントの血流は良くなりました。
シャント狭窄・シャント閉塞がPTAで治療困難な場合は現在のシャントを外科的に修復する手術を行います。単にシャントを作り直すだけではなく、現在のシャントを温存するためにシャントの状態に応じた多様な手術方法を駆使してシャントの治療を行います。